コップがあり
水とガラスとヒビがある
わずかずつしみだしにじみ
月の満ち欠けのようなひっそりとした周期で
水滴が落ちてゆく
あるいは
都市に散らばる無数の窓ガラスの一枚一枚に
無数の雨滴が一度きりの生命線を残して消える
雨の止んだ音が聞こえる
体の奥底のどこか中心を時のトレモロが揺らしている
甘い気配の夜
部屋に残された一杯の水を飲む
口の端だけがくすぐられたようにわずかな笑みをたたえ
澱んでいた眼差しもやがて気づく
死に瀕した病人の
すべての動物たちの命を明日へと運ぶ
眠りという名の船に乗りそこなって
取り残されたこの夜の
古い世界と新しい世界の交替するこの夜の
放物線の頂点に空白が現れ私の肩に触れた
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