この一日(ひとにち)に

2011.3.11, 〜2012.3.11, 〜〜〜

朽ち日

あの日はあのとき朽ちていった

あのとき星々は祈っていた

祈りの歌は風が伝えた

朽ちてゆく

石の塔も鉄の橋もみな等しく

朽ち日の終わりに

幕を下ろした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


   

さよならはすこしずつ

さよならは言えない

ひとことでひといきで

さよならなんて言えない

ゆっくりと

いくつもの昼といくつもの夜をかけて

すこしずつ

さよならを言うんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


命ずる声

溶き流した灰に紅ひとさしを

とむらいに

原色の悲しみにひとはけの影を

やすらいに

命ずる声の響き短く

眠れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


   

風となり光となって外へ

薄暗いって思う部屋は

灯りが足りないわけじゃない

灯りをなくした心を抱えてそれでもさ

笑っていたくて助けてほしくてそれなのに

自分と同じ色の影ばかり

薄暗いって思う部屋はさ

 

薄暗い影ってやつは

信じちゃいけない

炎の熱さも酸の強さもない影は

体温に似たぬるさで誘うのさ

頭からつっこんでって埋まっちまえと

薄暗い影ってやつはさ

 

風となり光となって

窓から外へ出られないか

風のように笑いかけ

光のように語りかけ

薄暗い影をふりはらって外へ

風となり光となってさ

 

 

 

 


喜びを待つ

星々の精を浴びて

黄金色の腹の膨らみは

赤い月を孕んだ

時来たりて

水破れ

光の産道より生まれ出づる

人の望みの喜びよ

まっしろの乳房の柔らかみは

おまえの口に含ませ与えるために

世界のどこか半分は

いつも影に被われているが

闇の中に色を醸し

輝きのどこにでも鮮やかに浮かぶ

世界はおまえに満ちてゆく

 

 

 

 


   

再会

さよならなんて言わなかった別れがある

行っておいでと送らなかった旅立ちがある

ここにいるよと知らせなかった移ろいがある

写真を見せなかった思い出がある

痛みを伝えなかった傷跡や

なぐさめを求めず流した涙の跡がある

なにもかもが溶けあう再会のときがある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


夢のうちそと

眠れ夢をみるために

身を横たえ夢をみよ

誰が描いたか知らぬ絵に似た

みたことのない夢を

 

目覚めよ夢を忘れるために

夢に溺れた肺を乾かせ

何色に染まるか知らぬ空が待つ

生きたことのない今日へ

 

くりかえす始めと終わりの円環に

一歩と同じ道なく

 

 

 

 


   

かたちなくゆれて

重さなく沈まず

軽さなく浮かず

触れる手に残らず

目を閉じたままなにかに

横たわるままどこかに

運ばれようとしている

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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