流れだした言の葉

言葉ことばつなぎあわせる流れ流れ色匂い光り影冷たい水暖かい風木の葉ずれの音ざわめき一瞬の静寂に響きわたる生と死魂の名前見つからない口に出せぬ名前呼べないもの背を向ける者掴みかかる手が首を絞める刃が切り裂く白い喉赤い血の色を撒き散らしながら落ちてゆく白い体を覗き込み続ける目二つの目が転がって引きずって紐状の神経を引きずって何処にも繋がっていない神経に向けて見たものを信号にして送っている目玉眼球止まらない止めてはならない何処へ転がってもいいのだ何処かへ転がって行きさえすればいいそれは命と同じ死ななければいい命と同じなのにそれなのに殺し合い死に合い殺して生きようとする者がいるせいで殺されて死ぬ者がいて泣くだけしか許されぬ者がいて笑いたいだけ笑う者がいる笑いたいだけ笑う者の靴をなめる者もその背中を踏みつぶされるのだそれなのに命は生まれてくる何故殺されるためだけに生まれてくるのか何故殺されるまで待つしか生きられないのに何故生まれてこないのか生まれてこなかった命さえ殺されてしまうのにそれでも風は吹くのだ風は水面がなくて波を立てられなくとも吹いている何処に吹いているのか誰も知らぬ風が吹いて止む吹いて止み繰り返される昼と夜太陽は神でも何でもないただ宇宙を焦がす火の玉だ月は閉じたままのまぶたでずっと見ているだけだ憎しみが泡立つのを見ているだけだ泡を立てて沸騰する憎しみは化け物を育てる養分にすぎないのだ怒りという狂った牝牛の母乳こそ憎しみなのだろう真っ黒い色をした腐った母乳を飲み干した赤ん坊は目を開ける初めて開いたその目には既に殺意が光っているのだ殺されるまで殺してやる決意している誰が教えたのでもなく始めから知っていた逃げ出そう逃げよう一人でもいい逃げるのだ何処へでもよい此処でさえなければこの汚い袋小路でさえなければ何処へでもいいから逃げよう二人で三人で四人五人千人で命が死ぬまで生きられる大陸へ渡ろう殺される前に逃げ出そう殺すのを止めたくなった者は空を目指せああ風に乗りだが私には無理だ幼き者たちよ風に乗って空を渡ってゆけあれはお前たちのための橋だ天空がお前たちだけのために造り上げた橋が見えるはずだためらうな全てを置き去りにしろ大切なものなど何一つないこの世界には何一つ大切なものなどないのだ安心して全てを捨ててゆけ私はああ私はもう動けない私はもういいのだ私は大切でない全ての中の一つにすぎないのだそれでいいのだ未だ生まれざる者たちよ聞いているか聴こえているか私は此処に立ちお前たちの行くべき方角を向いたまま朽ち果てよう目印にせよ憶えておけそれでもなお私には一握りの日々がまだあるのだ宝なのか毒なのかわからぬこのどろどろとした感触の掌中でうごめくものこそ私の魂なのだ世界は優しくも厳しくも無くただ始めから無関心であった私たちは勘違いをしたのだ世界に祝福されたと思い上がっていたのだ私は歴史に挑戦状を叩き付けた思い切り振り上げた右手はしかし弱すぎた醜い生き物が寄り集まって都市を作っているのが見える私の魂を燃料にあの都市に火を放つ計画をせめてこの復讐だけでも遂げさせたまえ風よ我が炎を助けたまえ

 

(完)

 

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