為すべき生存の果てに

ポケットの中でせわしなく音を立てる小銭しか持たぬ者、穴だらけの古着を重ねあわせて身を隠す者、雨雲を吹き寄せたのと同じ風に巻かれて寝床を失った者よ。汝が子の産声をこの世に聞いた最後の声とした者、殴られ盗まれ奪われ殺された者よ。人ごみの真っ只中に方角を失い一歩を踏みおろすわずかな面積すら用意されず与えられず四方八方から小突き回されたまま倒れるよりほかなかった者よ。我々よ。

我々の為すべきは生存のみ。今、我々を取り囲んだ悪鬼の群れの目を見よ。赤く燃えるような眸には闇が隠れているだろう。闇は奴らの故郷の空の色だ。奴らの出生証明書だ。悪鬼の首が一匹残らず鎖につながれているのが見えるか。鎖の端が奴らの足元の暗い穴に垂れ下がっているのが見えるか。穴の底では獣が鎖を握っているのだ。腹を空かせて獣は鎖を引っ張っている。獲物が足りぬと引っ張っている。へまをやった悪鬼の末路は穴の奥で食い殺される。獣もろとも骨になる。

我々はうなり声をあげ歯を剥く悪鬼どもを紙一重交わして生き延びる。生きているとも言えず死んでしまったとも言えぬ救いのない今を永遠に引き延ばす苦痛をくぐり抜けて生き延びる。

いつか! 我々は我々を救うだろう。

いつか! 我々は悪鬼どもさえ救うだろう。

 

 

 

 

 

 

 

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