空調機は朝から働きどおしだった。むろん機械なのだから誰のためでもなく半分腐ったような生暖かく濡れた空気を回転するファンの負圧で吸い続け、人間の往復するふいごのような肺には不可能な芸当で設計者の意図と製造者の呪いに衝き動かされるように、冷たく整った快適な空気に変えて吐き続けていた。
だがしかしやはりそこには配慮というものの一切が欠けていたために不快ではなかったとしても生身の人間に対する攻撃性を感じないわけにはゆかなかった。半時間ほど空調機にやられると人は食肉工場の貯蔵庫にぶらさがっているのとさして変わらない状態に気づかぬまま陥っている。そこへ新たな犠牲者が入ってくるのだが、開いては閉じる自動扉という罠の入り口の隙をついて、一陣の外気が弔問に訪れた。
外気は何もかもがすばらしく感じられた。匂い、硬さと重み、柔らかさと軽さ。真夏の暑気にあってなお温もりが輝かしく幸せをもたらすとは、いったいどんな地獄に我々は堕ちてしまったのかと問わずにはおれない。
空調機の支配は強固にして絶対で、天界の使者たる外気は一瞬で虐殺される。吊り下げられた食肉たる我々のうちの幸運な幾人かは外気に鼻腔をくすぐられ頬を触られ解放を味わっていた。しかし、彼らの幸運はそのまま不幸に等しく、解放の味わいはその深さを絶望に置き換えられるだけだった。
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