夜の交差点の出来事
夜の帰り道の出来事だった。大きな交差点の空洞に若い男の声が響いた。恋人の名を叫んだのだ。呼ばれた女は声を頼りに小走りに青信号を渡っていった。彼の声はとても強くて車のいない大きな交差点の空洞を一瞬でも満たすほどだった。そのあとに響いた二人の笑い声は二人だけのものだった。
実のところ私は交差点の彼を知っていた。宅配便会社で働くいつも半袖シャツを着ていつも走っている彼とは挨拶を交わす間柄であったのだ。私は二人に背を向けて遠ざかりつつ二人の声の親しみの音色に伴奏をつけたい気分になっていた。
コメントをお書きください
oretasakana (月曜日, 07 4月 2014 22:49)
散文と詩文のあいだにある作品。書きたかったことが指の間からすり抜けてゆくときの感触が幸せだった。それをつかまえないままに書こうとしてこういう作品になったのだろう。