誘蛾灯
青く沈んだ光がじっと見ている
あれはなんだ
笑い声の中心から少し外れて
せりだした軒下の影の中
ぼおと宙に浮かんで動かない
青く沈んだ光が見ている
ゆらゆらと夜をさまよう蛾の羽ばたきは
私の視線を引き連れて
青く沈んだ光へと向かう
十年ほど前の話である。夜の帰り道、幹線道路から一本裏へ入ったところで、一匹の蛾が目の前をゆらゆらと横切った。そこは大型トラックが行き交う轟音が響きながら視界が利かなくなるほど一気に暗くなる住宅街の影の中だった。
七センチメートルほどの大きさの蛾は私を待っていたかのように右手からふらふらと現われ、ちょうど目の高さあたりを飛びながら左手へ消えていった。立ち止まってしまった私の正面から左へ過ぎるそのとき、蛾は振り返って私を見た。蛾の目がすうっと赤く光り、私はその一瞬、蛾と目が合った。
私はそう感じたのだ。十年ほど前の話である。赤い光の色が今でも残っている。
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