耐熱硝子の器ひとつ

耐熱硝子の器ひとつ


使い古した耐熱硝子の器ひとつ

濡れた手を摺りぬけた

失った重みに跳ねかえる腕

微かなざらつきの残る指先


滴り落ちる水の滴が

耐熱硝子の器を追いかけ

追いつけないその真上の空を

国際線旅客機の機影が走る


やがて鈍い衝撃と爪先の痛みと

沼地や岩盤や大陸棚のむこうから

足裏の床につながるどこか遠い地上から

憎しみの唸りが

愛を交わし打ちつけあう肉体の響きが

炸裂する爆弾の破壊が

赤ん坊の肺ふくらます力強さが

そういう感触がぐにゃりと伝わる


遅れてきた水の冷たさに目を落とすと

耐熱硝子は砕け散っていた

数え切れない欠片のすべては

同じ光に輝いていた




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